映画「ラースと、その彼女」のネタバレありのあらすじ・考察・感想。異常なのはラースか、周囲か。

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春文

大学時代は文学部史学科文化人類学専攻で宗教、西洋文化史、サブカルチャーなどを勉強。趣味は漫画映画ジブリYouTube芸能ダークアカデミア、地域文化、ブログなど。現在は制作会社の運営などもしてます。

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映画「ラースと、その彼女」。ラ・ラ・ランドで エマ・ストーンとともに主演を務めたライアン・ゴズリングが主演のヒューマン・ドラマ。
27歳のラースは兄夫婦と向かいに住み、仕事も順調にこなし、毎週教会にも通う優しい青年だった。彼の悩みは周囲に「恋人はいないの」「1人だと寂しいでしょう」と気をつかわれ続ける日々を送っていること。そんな彼に気をつかう兄の妻は毎日「ご飯においで」「心配なの」「寂しいでしょう」と嫌がるラースをよそに過剰に心配をし続ける…。
そんなある日、ラースは彼女の”ビアンカ”を連れてくるのだが、周囲はより一層ラースに心配をすることになる。なぜか? “彼女”はラブドール、ダッチワイフだったのです。

今回もこのブログらしく、ポイントで見どころ・気になりどころを紹介した上で、最後にあらすじ・ネタバレありの考察・感想を書きたいと思います。

“異常”なラースに感情移入させる描写のうまさ|映画「ラースと、その彼女」の感想・考察①


この物語のポイントは周囲に彼女をつくれ、寂しいだろうと”同情”を強要されるラースが、”彼女”であるビアンカと過ごすことによって周囲も変化しながら、医師の支えもあってラース自身の心情に変化が訪れること。
異常とも言えるラースに感情移入し、物語を楽しむ肝になるのが物語の冒頭に描かれる「ラースに対する周囲の酷さ」の表現が秀逸だからです。
独り身の男性なら感じたことが多いと思いますが「彼女がいない」「結婚していない」「興味もなさそう」「仲間と過ごしていないことがおかしい」というような、周囲からの圧力に嫌気がさしたことはあると思います。一方で、”当たり前の幸せ”を絶対的な価値観だと思っている人は、無自覚にそういう人たちに”同情”の強要をしがちだと思います。
この物語の冒頭では、執拗に、ラースをいじめるかのように全員が「彼女をつくれ」「一人は寂しい」「一緒にご飯を食べましょう」と”同情”圧力をかける表現が重ねられることで、一気にラースに感情移入することができるのです。

ラースが異常なのか、周りが異常なのか|映画「ラースと、その彼女」の感想・考察②

そして、周囲の圧力に耐えかねたラースは同僚に紹介されたラブドールを購入します。翌日、早速圧力が最も強い、妊娠中の兄嫁に対して「彼女ができたから紹介する」と伝えたラースは、「彼女は車椅子だけど気にしないで。ネットで出会ったよ」と話した上で兄夫婦の夕食にラブドールのビアンカを招待します。
兄、兄嫁は気が狂ったか? からかっているのか?? と感じますが、ラースは本気のよう。ついにクレイジーになっちまった‥と嘆く兄に対して、兄嫁は(この人が原因だと思いますが)理解を示しながらも、明日病院に行こうと提案します。
物語の中で、ラースは「フリをしている」のではなく、本当に妄想してしまっているということが描かれます。しかし、そのきっかけとなったのは周りからの圧力。ラースを”異常だ”と話すシーンは多いですが、果たして異常なのはどっちだ? と思ってしまいます。

“ダッチワイフ”のビアンカがラースを、周囲を変えた|映画「ラースと、その彼女」の感想・考察③


そしてラースとビアンカ、そして兄夫婦、街の人々の不思議な生活が始まります。
ラースはビアンカを街の人々に紹介しながらも、ときに紹介を躊躇する描写もあります。しかし、周囲の人々も徐々にビアンカを受け入れ、そしてラースに対しても自然に振る舞うようになります。
大きな変化は2つ。1つはラースが彼女と過ごすことで、また早くに夫をなくしたダグマー・バーマン医師に”女性恐怖症”とも言える症状に立ち向かうための訓練を施されることで女性と過ごすこと、家族と過ごすことに対する価値観に大きな変化が生まれます。ラースは自分が生まれるために母親が亡くなったことに対して強い罪悪感を感じています。そして、陰気な父親と二人で過ごすことが多く、女性に対して無自覚の抵抗感があるようです。ビアンカと過ごすこと、ダグマー・バーマン医師の支援を受けることでこれまで漠然とした恐怖だった女性との生活に少しずつ現実味が帯びたようです。
2つめは、ビアンカと過ごすラースを見た周囲は、ラースに対しても、ビアンカに対しても以前とは違うやさしさを持って接することになります。”異常”だと思われていた最初とは変わって、徐々に人間としてビアンカと接する人々。そしてビアンカと過ごすことに対して強い抵抗感を持っていたラースの兄も、ラースに対して自分が過去にした出来事の謝罪や、家族観を打ち明けます。変化した周囲に対しても、ラースはポジティブに影響を受けていきます。

そして、ついに”彼女”であるビアンカは亡くなってしまいます。(医師によれば、ラースがビアンカが病気で亡くなることを描いている、、と語ります)”彼女”のビアンカと過ごす日々に終止符を打ったラース。翌日自宅にはビアンカを思う街の人々から送られた花束と、多くの人に惜しまれた葬式を行います。
そして、ビアンカとの日々を支えた一人でもある同僚のマーゴと新たな生活をスタートするのです。

ライアン・ゴズリングの演技力、ラースに見えている世界とは…|映画「ラースと、その彼女」の感想・考察④

Wikipediaより


この物語は完全にライアン・ゴズリングの演技で成立しています。
ラースは無口な青年なので、ストレスや悩みに対してはっきりと言葉を発することはありません。
ただ、ビアンカとの日々を送る事によって周囲に対してのメッセージをはっきりと伝えながら、自分の中でもモヤモヤした感情を理解していきます。
複雑な感情・心境を演技で表現しているのは見事としか言いようがありません。
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映画「ラースと、その彼女」のネタバレありのあらすじ、感想、考察

ポイント書きで大方のあらすじも書いてしまいましたが、最後に補足的にあらすじは書いておきたいと思います。

周囲からの圧力

物語は青年ラースが、周囲から彼女をつくれ、結婚しろ、一人は寂しいぞとプレッシャーをかけられる描写から始まります。

ラブドールを彼女と呼ぶラースと、ラースを支える教会の女性

プレッシャーに耐えかねたラースは、ラブドールの”ビアンカ”を彼女だと思いこむ妄想に取り憑かれます。
当たり前かもしれませんが周囲はラースを”異常”と称して遠ざけようとしますが、兄夫婦はラースが通う教会に助けを求めると、1人の女性が「私に任せて」と率先してラースを支えます。その姿を見て、周囲も同じように接していきます。

彼女、母親、女性、兄嫁、医師

妄想に取り憑かれる事になった原因は、彼自身が生まれるときに母親を亡くしたことが原因で女性に対する恐怖心や、出産に対しての恐怖心を抱いていること、それ故、兄嫁の妊娠や、女性との交際・結婚を考えることに恐怖を抱いているようです。
しかし、そんな彼の感情を理解しないまま周囲は「彼女をつくれ」「結婚しろ」という圧力をかけることに耐えきれなくなり、妄想をし始めることに。
ラースは思い通りに行かないビアンカ、そして周囲に対して怒りや複雑な気持ちをいだいて過ごします。そんな中で兄と家族について会話したり、周囲と会話することで徐々に自分の中での女性観・母親・出産などに対しての価値観が変化していきます。

女性からの優しさが痛い。支えるダグマー・バーマン医師

そんな女性たちとの日々の中でも、重要な出会いがダグマー・バーマン医師の診察です。
彼女はラースが妄想にとりつかれたときにも最初から味方です。そしてラースが「優しさが痛い」という悩みを話してくれたことに対して理解を示し、少しずつ痛みを和らげるリハビリに協力していきます。
ラースは兄嫁の”心配”や”同情”に対して物理的な痛みを感じていました。中でも、優しさを伝えるためのハグや握手に対して苦痛を感じていた。
間違いなくダグマー・バーマン医師がいなければラースの中での変化は訪れなかったと言えるでしょう。

ビアンカとのすれ違い、思い通りにならない彼女

そんなラースとビアンカの日々にも変化が起きます。
「都合のいい女性」として描かれることが多い”彼女”ビアンカは周囲の支えもあって病院やアパレルショップなどに連れて行かれることが多くなります。ラースは思い通りにしたいのに、思い通りにならない。
そのことでビアンカと”口論”にもなります。
しかし、街の女性や兄との対話を通じて、ビアンカを”支配”することを誤りだと気づくラース。

同僚”マーゴ”との痛い? 握手


ラースに思いを寄せる同僚マーゴは、ラースとの距離を縮めるためにアプローチをし続けます。
しかし、ビアンカとの暮らしに対しても理解を示しながら、ラースを支えます。

反応のないビアンカの危篤。医師の一言。

周囲も自身も変化したラース。
ある日「ビアンカは僕を好きだが、僕に対して反応がないんだ」とダグマー・バーマン医師に話します。それは、彼が女性と向き合い、ビアンカを思い通りにするのではなく、彼女の思いを尊重しようとするラースの心境の変化が現れた一言だと思います。
そしてついに、ラースが「ビアンカは病気で危篤だ」ということを話しはじめ、緊急搬送されるビアンカ。
医師はその一連の出来事に対して「すべてラースが決めている。ビアンカが病気で、死にそうになっていることを」と一言。ビアンカの死は、ラースの心境の変化が理由になっていると言えそうです。

ビアンカの死と周囲、花束、そしてラースの変化。

ラストはビアンカの死と、それをとりまく周囲の人々の姿。
ビアンカは死にましたが、ラースは葬儀を立派に終えます。そして、ビアンカに対して街の人々からの献花。そして彼女を大切な人と思いながらも、同僚マーゴと新しい日々を過ごし始めるのです。
 
ラースの”成長”とは言いたく有りませんでした。これは”変化”だと思います。
どちらがいいということではなく、単純にラースの価値観が変化していった。不安で、繊細で、傷ついていたラースは、ビアンカを通じて街の人々と交流し、女性観・家族観がつくられ、最後には目の前にある厳しい現実と向き合えるようになったのだと思います。

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映画「ラースと、その彼女」の製作・概要

2007年製作/106分/アメリカ
原題:Lars and the Real Girl
配給:ショウゲート

制作陣

監督:クレイグ・ギレスピー
製作:ジョン・キャメロン/サラ・オーブリー/シドニー・キメル
脚本:ナンシー・オリバー

キャスト

ライアン・ゴズリング
エミリー・モーティマー
ポール・シュナイダー
ケリ・ガーナー
パトリシア・クラークソン

画像:(C)2007 KIMMEL DISTRIBUTION,LLC All Rights Reserved

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